彼らを「優勝候補筆頭」とすることに異論を唱える人がいるのでしょうか・・・
フランス代表は、ユーロ2020に向けて着実な歩みを続けています。
ロシアの地でワールドカップを掲げたフランス代表は、世界の頂点に立った後も慢心することなく強化に取り組んできました。
それは今夏行われるユーロ2020が、彼らにとっては喉から手が出るほど欲しいタイトルだからです。
彼らの非常に高いモチベーションはフォーメーションひとつとっても見て取ることができます。
彼らはロシアワールドカップを制した戦力をベースに、続々と現れる若手をチームに組み込みながら堅実さを増しつつ多彩さを取り入れることに成功しました。
このユーロ2020はディディエ・デシャン監督率いるフランス代表にとって、一つの集大成となるでしょう。
今回は2021版フランス代表のフォーメーションについてお伝えします。
戦力のさらなる充実が、チームをひとつ上の段階へと引き上げた
新型コロナウイルス感染拡大により、1年延期されていたユーロ2020が今夏開催されます。
今大会よりレギュレーションが大幅に改定され、これまで16チーム4グループ制だった参加国は24チームになり、6グループに分かれてグループステージを戦います。
そして開催国制度が廃され、代わりに欧州各国12都市の主要スタジアムでグループステージが行われ、聖地ウェンブリーで決勝が行われます。
2018年のロシアワールドカップを制したフランス代表は、もちろんロンドンでトロフィーを掲げ主要国際大会2連覇を実現可能な目標として掲げています。
育成年代の成功が大きな成果をもたらしつつあるフランス代表は、当時から誰もがうらやむような戦力を保持していました。
そして、この3年間でフランス代表の戦力は、さらに充実しました。
それは単純に新戦力が増えただけでなく、より堅実さが増し、多彩さという武器も新たに備えつつあるからです・・・
「堅守」こそが最大の武器であるという絶対的事実
2018年当時のフランス代表の武器は間違いなく「堅守」でした。
ワールドカップでの全7試合を通して相手にリードを許したのは決勝トーナメント1回戦のアルゼンチン戦のたった9分間のみ。
彼らは残りの620分で主導権を五分ないしは握ってプレーしていたということになるのです。
堅守が彼らのチームコンセプトであることはメンバー構成をみても明らかでした。
サイドバックには中央もこなせるバンジャマン・パヴァールとリュカ・エルナンデスを配し、相手にサイドからの突破を許しませんでした。
最終ラインの前ではエンゴロ・カンテが危機を事前に察知し、クラブでは無気力なプレーが続いていたポール・ポグバも代表チームでは別人かと思うほど献身性を発揮しています。
サイドハーフにも本来運動量豊富なセントラルミッドフィルダーであるブレーズ・マテュイディを置き、プレスバックでディフェンスラインを支えました。
彼らが低い位置でブロックを敷き、キリアン・エムバペを経由するカウンターに繋げるというのが、フランス代表の主な得点パターンとなっていました。
あまりにも守備的すぎるスタイルから対戦相手から不満が漏れたこともありましたが、あれから3年経った現在においてフランス代表は「堅守」をベースにより多彩なチームへと変化しつつあります。
そしてそれは彼らのフォーメーションからも見て取ることができます。
2021年版フランス代表フォーメーション①4-2-3-1
フランス代表は4-2-3-1のフォーメーションでワールドカップを制しました。
ロシアワールドカップを制したメンバーがほぼそのままレギュラーを掴んでおり、めぼしい変化は右ウイングにキングスレー・コマンが、最終ラインのセンターレフトにプレスネル・キンペンベが起用されるようになった点。
ここ2年間ディディエ・デシャン監督は、この4-2-3-1を軸としながら、いくつかの新システムを試しながらチーム力の向上を図ってきました。

nこれらが単なるオプションの域に留まらないフォーメーションであることは、ワールドカップ予選やユーロ予選などの公式戦でも採用されていることから想像に難くありません。
それでは、これからフランス代表のフォーメーションについて解説していきましょう。
2021年版フランス代表フォーメーション②4-3-1-2
驚くべきことに、近年は採用するチームが減少傾向にある4-3-1-2をデシャン監督は選択したのです。
中盤をロンボ(ひし形)に構えることでパスコースが増えてポゼッションが安定するというのが一般的なこのフォーメーションの評価です。
一方でこのサイドアタッカーを廃したフォーメーションにはネガティブな側面が2つあります。
ひとつは相手が4バックだった際にサイドバックにプレスをかける人員が構造上いないということ、それに伴って相手に比較的容易にサイドからの組み立てを許してしまうケースが少なくない。
もうひとつはタッチライン際でプレーする攻撃的な選手がいないので、中央のエリアを封じ込められたときにサイドを攻略する策が少ないという点にあります。
特にフランス代表は両サイドバックがパヴァール、リュカと比較的守備力の高い人材をチョイスしていることもあり、最終ラインからの攻撃のサポートがやや薄いのです。
より攻撃的なキャラクターが強いパヴァールがビルドアップや崩しに関わることが多いですが、例えばジョルディ・アルバ(バルセロナ)やダニエル・カルバハル(レアルマドリード)を擁するスペインや、カイル・ウォーカー(トッテナム)、トレント・アレクサンダー=アーノルドを擁するイングランドに比べるとサイドバックの攻撃力が高いチームではないのです。
つまるところ、この4-3-1-2システムは攻守においてサイドの人員が不足しているので、その数的不利を相手に利用されかねないということです。
フランス代表の4-3-1-2が機能した理由
それでもデシャン監督が4-3-1-2システムをひとつのオプションとして選択したのは、このフォーメーションを機能させるだけの戦力と柔軟性がこのチームに備わっていると判断したからでしょう。
その根拠となるのが2点。
ひとつは、4-2-3-1のフォーメーションに比べると割り当てられる数が増えるセントラルミッドフィルダーの人材が引き続き充実しているからです。
セントラルミッドフィルダー以降の人材の入れ替わりは以下の通り。
既存戦力
ポグバ、カンテ
新戦力
ラビオ、カマビンガ、ムサ・シッソコ、ヌドンベレ
序列低下
エヌゾンジ、トリッソ
代表引退
マテュイディ
アメリカに新天地を求めたマテュイディは実質的に代表引退。
ロシアではそれぞれ貴重なバックアッパーとクローザーを務めたトリッソとエヌゾンジは、クラブチームでの不振や規律の問題が重なってやや序列を落としました。
つまり、大きく見積もって損失戦力は3人ということになります。
一方で新たに登用された戦力は4人。
17歳という若さでフランス代表デビューを飾った逸材エドゥアルド・カマビンガ、得点力こそ平均以下ですが身体能力と柔らかなテクニックを併せ持ったタンギ・ヌドンベレ、デシャン監督と和解した万能型のアドリアン・ラビオ、そして右サイドハーフもこなせるムサ・シッソコなど若手から中堅/ベテランまでもが加わり、不動のポグバ、カンテや当落線上のエヌゾンジ、トリッソと合わせて8人もが凌ぎを削る充実の陣容となっています。
これだけの陣容が整っている以上、ダブルボランチにこだわる必要はないという判断は整合性があります。
もう一つの理由は、キリアン・エムバペの存在です。
今やフットボール界の顔といってもおかしくないレベルにまで成長したフランス代表のエースは、その存在ひとつで戦術的な広がりをチームにもたらしてくれています。
所属するパリSGではウイングを務めているように、中央を根城としながらもサイドに流れてプレーすることも可能。
そこからのラストパスやドリブル突破などチャンスメーク能力も備えており、エムバペがボールサイドに流れることでタッチライン際の数的不利を改善することもできるし、相手サイドバックの攻めあがりも抑制することができる。

2トップの相棒にはペナルティエリア内を主戦場とするセンターフォワードタイプが必要ですが、幸いにもオリヴィエ・ジルーが健康体を維持しています。
左サイドに流れたがる傾向が強いアントニー・マルシャルもこのフォーメーションとの相性が悪くなさそうですが、所属するマンチェスター・ユナイテッドでは不調で本大会のメンバー入りから遠ざかっています。
デシャン監督はエムバペ不在時の対策として、2トップの一角にウイングのキングスレー・コマンを選択することもあり、このフォーメーションを機能させるための試行錯誤に余念がありません。
2021年版フランス代表フォーメーション③3-4-1-2
近年採用するクラブが増えつつあるのが、この3バックのフォーメーションです。
1トップ+2ウイングで形成された前線から1枚を最終ラインにあてたのがこのフォーメーション。
フランス代表の場合は、中盤をアントワーヌ・グリーズマンを頂点とし、ポグバとカンテを後方に並べる正三角形が基本形であり、この形は4-2-3-1のフォーメーションからまるごと転用したものであるため、3-5-2というよりは3-4-1-2が最もしっくり来る表現か。
最大のストロングポイントはセンターバックを3枚並べる最終ラインで、ラファエル・ヴァラン、クレマン・ラングレ、プレスネル・キンペンベらの主力を軸に、セカンドラインにもクルト・ズマ、ダヨ・ウパメカノ、アイメリック・ラポルテなど実力者をズラリと揃えており、選手層が厚いセンターバックにより多くの人員を割くをという点においては合理的な選択肢となっています。
何度か上述している通り、パヴァールとリュカもこのポジションに対応が可能で、センターバックの選手層は他国の追随を許さない至高の領域に到達しつつあります。
このフォーメーションのもう一つの特徴が、ウイングバックの人選です。
右はリヨンのレオ・デュボワ、左はエバートンのリュカ・ディーニュもしくはPSGのレーバン・クルザワ、レアルマドリードのフェルラン・メンディが務めることが多くなっています。
彼らは4バックの際は両サイドバックのバックアッパーという位置付けですが、3-4-1-2のフォーメーションが採用される際にはスタメン起用されています。
やや守備意識が希薄なクルザワはともかく、デュボワとディーニュ、メンディの3人はいずれも守備組織の一員としての振る舞いがしっかりとできるキャラクター(特にデュボワ)の持ち主で、守備時にはこの両翼が最終ラインに吸収されて5バックになって分厚い守備網を形成します。
堅実に守備から試合に入りブロックを形成するにはうってつけのフォーメーションとなっています。
一見攻撃に厚みを欠くフォーメーションですが、後方に憂いが少ない分ポグバは攻撃的に振る舞えるし、エムバペが健在であればサイドの数的不利も問題にならないのは4-3-1-2の項でも触れた通りで、このフォーメーションの採用にも十分論理的整合性があるのと言えるでしょう。
2021年版フランス代表フォーメーション④4-4-1-1
2020年以降採用の頻度が上がったのが、この4-4-1-1。
基本フォーメーションの4-2-3-1と近いシステムですが、採用の理由には合理性があります。
トマ・ルマールやキングスレイ・コマン、ウスマンヌ・デンベレが復調したことにより、サイドアタッカーの陣容が充実し、これまでこのポジションで起用されていたキリアン・エムバペを最前線で使うことが出来るようになりました。
オリビエ・ジルーが35歳、アントワーヌ・グリーズマンが30歳になったFWはやや世代交代が遅れ気味で選手層にも若干の不安があるポジション。
このポジションにウイングで起用される機会が多いエムバペを転用すれば、選手層の薄さの一時的な解決策としては十分。
対戦相手に合わせてジルーとグリーズマンのどちらかをエムバペと組ませるというのがデシャンの算段なのでしょう。
ちなみに相棒が基準点型のジルーならば、エムバペはその後方にオフセットして広く動き回り、セカンドトップタイプのグリーズマンなら最前線に位置してストライカー的に振る舞うことになります。
エムバペ、コマン、ルマール、デンベレらで構成させる攻撃陣はそれぞれが独力で局面を打開できるクオリティーを備えており、守備力の問題を抱えているチームやハイラインを敷くチームにとっては脅威となるでしょう。
いかにしてフランス代表はいくつものシステムを機能させることができたのか?
今回は2021年のフランス代表のフォーメーションについて紹介しました。
この記事ではシステム的な戦術論をメインテーマとしましたが、現在のフランス代表の戦術的な柔軟性を支えているのは何よりもそのタレントの豊富さにあります。
下のリンクではフランス代表のポジション別のメンバーと序列について紹介しています。
ロシアワールドカップを制して以降も、精力的に戦力の拡充を図ってきたフランス代表。
特に若年層からの突き上げは引き続き素晴らしく、中堅・ベテランも健在を示すなど選手層は日に日に増すばかりです。
ユーロ2020を観戦するのであれば、フランス代表は必ずチェックすべきチーム。

絶対に一読すべき内容となっています。
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